竹林の中の犬


まだ高校生だったか、卒業してからだったか、

Y先生とその仲間達で、普段は住職のいないお寺へ遊びに行ったことがあった。

そのお寺は、近くのお寺の住職が時々様子を見られているとかで、

その住職さんから「筍を食べにきませんか?」とのお誘いだったように思う。

Y先生の一派には、ねずみ年のM先生がいるから、そういう誘いはすぐに実現する。


朱雀高校の(元)生徒も何人かいて、那須くんと私も(当時は親しくなかったが)声を掛けられて参加した。


お寺に到着してみると、傾斜地に竹林が広がっており、坂の上の方にお寺があった。

大人がわいわい話しているのに飽きて、それほど筍にこだわりのない若者は、竹林に散っていった。


すると、なぜか竹林の中に、木製の小屋に閉じ込められた大きな犬がいて、遠くからでも人を見るとワンワン吠えていた。

私は、当時は犬に興味もなかったので、(凶暴だから閉じ込められているのかな)くらいに思って、遠巻きに通り過ぎていった。

しばらくして、余計にギャンギャン吠えるので、振り向いてみると、那須くんが犬小屋に近づいていくところだった。犬は鉄製の柵から鼻を突き出して吠えている。

危ないよ…、思わず「大丈夫ー?」と声をかけると、「うん、大丈夫」と言って小屋の前でしゃがみ込む。膝を抱えるように座って犬を見ている。

私はその場を離れて、明るい陽が差す竹林の散歩を続けた。


しばらくして、お寺に戻ろうと来た道を歩いていると、犬小屋に近づいてきたのに犬が吠えない。

どうしたのかと犬小屋をみると、那須くんが柵の間から手を入れて、その犬をワシャワシャと撫でている。手なづけたのだ。

私が近づいていっても、その犬はもう吠えなかった。

「出して欲しいんだね」

「さみしかったね」

と、那須くんは犬に話しかけていた。




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