長生きして

 


人は皆、生まれた時から死に向かっていると言うけれど、
那須君は死について、あるいは自分の死後について、ほとんど何も話さなかった。

ただ、まったく元気な頃に、親のお葬式やお墓について、二人で話していた時に、自分だったらどうして欲しい?と聞いてみたことがあった。
彼は「本当に、どうこうしたいということはない。残った人が好きにすれば良い」と即答していた。

「火事になったらこれだけ持って逃げる」と言って、常々大事にしていたギターですら、誰かに託したいという願望を持っていないようだった。
 
自分が物を大事にすることと、その物をいつか自分以外の人に託すこと(を考えること)は、全く別のことなのだな、と思った。

那須君にとって大事なのは「今」であって、
先のこと、ましてや自分が居ない死後のことまで考えることは無駄、
残された人を縛って迷惑をかけたくない、とも言っていた。
 

そして、こんな会話もした。
美「どっちが長生きすると思う?」
耕「ワシは絶対長生きする!」
美「那須家は長生き筋やもんな。でも一人になったら寂しいで?」
耕「長生きしたら、嘘つきまくるんや!ふっふっふっ♪」