ブライアンの言葉とお誘い



2019年秋に がんの再発があり、抗がん剤の種類が変わった。身体が一気に痩せ、頭髪も抜けていった。それでも那須君は塞ぐでもなく、本当にいつも通りに穏やかに過ごしていた。

 

そんな時、たまたまアメリカのブライアン・タマナハ氏から「調子はどうだ?」というメールが来た。自分の状況を率直に伝えたやりとりの末に、おそらく心配したブライアンから国際電話をもらって、那須君は明るく話をしていた。

 

その電話を切ってすぐ、珍しく高揚した様子で私のところに来て言うには、

「ブライアンは『痩せても、毛が抜けても、コウスケはカッコイイよ!』と言ってくれた~」ということだった。本当に嬉しそうだった。

きっと、那須君にとって一番かけて欲しかった言葉を、ブライアンは言ってくれたのだ。

 


それからも苦しい過酷な治療を受け続け、いよいよ次の春にはラコとの暮らしが始まるという2019年の年末だったかに、ブライアンがまた連絡をくれた。

ブライアン自身も二人の娘を育てているので、「子どもが来たら、二人だけの時間は取れなくなる。絶対、今のうちに旅行をしたほうがいい!」とのことだった。


そして「カウアイ島にある実家に泊まれば良い。両親は亡くなって空いているから」と誘ってくれた。

しかし しばらくして、「実家は改築工事がはかどらず、春休みに泊まるのは無理になった」と連絡があった。那須君が「そうか、仕方がないね。カウアイでどこに泊まれば良いかな?」と返事をすると、またしばらくしてから、「カウアイの妹の家に泊まれば良いよ」とメールが来た。


てっきりホテルを教えてくれるかと思っていたので、驚いて恐縮したが、数年前にオアフ島でブライアン一家と食事をした際に会っていた妹さんから、すぐにフレンドリーなメールが来て、ウェルカムな雰囲気に甘えることにした。



年明けからは、ラコとの同居に向けて頻繁に交流を重ねていたので、切れていたパスポートの更新や、国際運転免許証の申請に、ラコを連れて行ったりした。

飛行機のチケットを急いで取り、コロナの足音が大きくなる中、ガラガラに空いた関空からハワイへ逃げるように出発したのだった。

向こうに着いて数日したら、トランプ大統領が「もうハワイには観光客を受け入れない!」と宣言したニュースが流れた。


日本人を見かけない、カウアイ島の空気は彼に合っていたのか、

「ここに居たら治る気がする。ずっとここにいようか」と微笑んで、

病気のことを忘れそうなくらい元気で、リラックスして過ごせた。


        

                 (ピース)